2008年07月03日

天女の社

 最初のアップは、本来書こうとしていたものとはベクトルの異なる作品です。
 もともと、ショートフィルムを主に制作している某監督さんが、自分の代わりにホンを書いてくれるライターを募集しているということで、そのコンペに参加したときに検討用に送ったホンです。
 その後、監督さんから連絡があり、結局はライターとしては選ばれませんでしたが、「このホンで撮りたい」と言っていただいた作品です。

 まあ、それ以来、監督さんからの連絡がないので、実際どうなるか分からないんですが(汗)。



天女の社


   人 物
 桃川杏(26)
 桃川真一(26)
 少女(11)
 少年(11)

○とある田園
   一面の青空。
   広がる田畑。
   その中にひとかたまり、異質なものの
   ように存在する林。
   とぼとぼとそこへ向かう桃川杏(26)。

○同・林
   林の中に入っていく杏。
   木々の間から差し込む陽光が杏の足下
   を照らす。
   杏、陽光を見上げ、そのまぶしさに目
   を細める。
   杏、何かを探しているように、周囲を
   キョロキョロと見回す。
   と、突然に林の中を駆ける一陣の風。
杏「うわっ!」
   杏、風から目を背ける。そして、風が
   駆け抜けたのを悟ると、恐る恐るとい
   う感じで目を開ける。
   すると、そこには人の背丈ほどの小さ
   な鳥居がある。
   ホッとした表情になる杏、鳥居に向か
   って歩きだす。
   杏の向かう先、鳥居の向こうには、や
   はり小さな社がある。
   社の上だけ、穴を開けるように木々が
   避けており、スポットライトのように
   陽光が社を照らす。
杏「まだ……残ってたンだ……」
   杏、社に歩み寄り、社のホコリを手で
   払う。そして、社の横に座る。
   杏、陽光をまぶしそうに目を細め、見
   上げる。
   そして、ゆっくりと目を閉じる。
   と、そこへ少女(11)の声。


少女「誰?」
   杏、パッと目を開け、声の聞こえた方
   に目を向ける。
少女「誰?」
   杏、慌てて立ち上がり、
杏「あ、あの……」
   少女、数歩後ずさる。
   杏、少女が警戒していることを察し、
杏「あのね、私、子供の頃、この辺に住んで
 たことがあってね、子供の頃、ここが、そ
 の秘密の隠れ家だったりして……ま、その
 懐かしくなって……」
   と、ぎこちない笑顔を見せる。
   そんな杏の様子を見て、プッと吹き出
   す少女。
少女「悪い人じゃなさそう」
杏「そ、そう……?」
   と、安堵の表情になる。
少女「ホントはあたしの場所だけど、お姉さ
 んには特別に貸してあげる」
杏「ありがとう」
   杏、元いた場所に座る。
   少女、杏とは逆の方、社を挟むように
   して座る。
杏「ねぇ。知ってる?」
少女「え?」
   と、社の影から顔を見せる。
   同じように社の影から顔を見せる杏。
杏「天女の話」
少女「天女?」
杏「昔、この土地に天女が舞い降りたの。そ
 の姿を見た村人のひとりが天女に一目惚れ
 して、村にとどまるようにお願いしたの」
   杏の話を真剣に聞く少女。
杏「それで、村人の一途な想いにほだされた
 天女は、その村人と夫婦になったの。でも、
 その村は干ばつ続きで田んぼが干上がっち
 ゃってお米も何も穫れなくなってたの。で
 も、その天女がやって来てから、みるみる
 田んぼに水が戻ってきて、それまで以上に
 農業が盛んな村になったんだって」
少女「それで?」
杏「それから、人間として生きた天女は、死
 んでからも村人に愛されていたンだね。村
 人は天女のために、このお社を造ったの。
 天女への感謝の想いを込めてね」
少女「へぇ……」
杏「って、子供の頃に、ここで会ったお姉さ
 んに教えてもらった話だけどね」
   と、微笑む。
   少女、社を見つめる。
杏「何かあった?」
少女「え?」
杏「私があなたぐらいの年の頃、何か嫌なこ
 とがあると、いっつもここに来てたの」
少女「そうなンだ……」
杏「聞いてあげるよ? 私も一度だけ、そう
 やって人に聞いてもらったことがあるの。
 さっきの天女の話をしてくれたお姉さんな
 ンだけどね」
   少女、ためらいがちに、口を開く。
少女「ケンカ……しちゃって……」
杏「うん」
少女「ここのことなんだけど……」
   杏、下を指さし、
杏「ここ?」
少女「うん……2人だけの秘密の場所だった
 の。そこに、転校してきたばかりなのに、
 すぐに仲良くなった友達を連れて来ちゃっ
 たの、そうしたら、真ちゃん、怒っちゃっ
 て……」
杏「真ちゃん?」
   少女、ハッとして口を押さえる。
   杏、優しく微笑み、
杏「ちゃんと謝った?」
少女「謝ろうとしたけど、真ちゃんが怒鳴る
 から、こっちも意地になっちゃって……」
杏「謝れてないンだ……」
   少女、頷く。
   杏、動き出し、少女の前に座る。
杏「そういう時は、謝っちゃえばいいの。ケ
 ンカになっちゃうと、謝ったら負け、なん
 て思うかもしれないけど、そうじゃないよ。
 謝ることの方が勇気がいるンだから。勇気
 を出した人が負けるなんてないの。ね?」
   少女、微笑み、頷く。
   と、足音が近付いてくる。
   ハッとする杏と少女。
   そこに少年(11)が立っている。
   少年の姿を見て、固唾を呑む杏、思わ
   ず立ち上がる。
少年「やっぱりな」
少女「真ちゃん……」
少年「お前、何かあると必ずここに来るもん
 な。あん……」
   少女、バッと立ち上がる。
   少年、ビクッとして身構える。
少女「真ちゃん!」
少年「な、何だ?」
   少女、深く頭を下げ、
少女「ごめんなさい!」
   少年、少女の姿をジッと見つめ、
少年「俺もゴメン。俺も言い過ぎた」
   少女、顔を上げる。
   涙をぽろぽろと流しているが、微笑ん
   でいる少女。
   少年、困ったように、頬をぽりぽりと
   掻く。
少年「帰るぞ。みんな心配してる」
少女「うん」
   少年、少女と杏に背を向け、足早に去
   っていく。
   少女、少年についていこうとするが、
   ふと立ち止まり、杏に振り返る。
少女「ありがとう」
   杏、呆然と立ちつくしている。
   と、再び林の中を駆け抜ける一陣の風。
   杏、風から目を背ける。そして、風が
   駆け抜けたのを悟ると、恐る恐るとい
   う感じで目を開ける。
   そこに、近付いてくる足音を聞き取る
   杏。
   杏、足音のする方へ目を向ける。
   と、そこには桃川真一(26)が立って
   いる。
真一「やっぱりな」
杏「真ちゃん……」
真一「お前、何かあると必ずここに来てたも
 んな。昔と変わンねぇな」
   真一の左手薬指に光る銀色の指輪。
   真一、握っていた右手を開き、指輪を
   見せる。
真一「ケンカのたびに、指輪投げつけてくの
 やめろよ。家の中ならともかく、外だと探
 すの大変なんだぞ」
   杏、ゆっくりと手を伸ばし、真一の手
   から指輪を受け取る。
真一「待てよ」
   と、杏の手から指輪を取り上げ、杏の
   左手薬指に、その指輪をはめる。
   杏、左手をギュッと握りしめる。
杏「真ちゃん……」
真一「うん?」
   杏、涙をぽろぽろと流し、
杏「ゴメンね……」
真一「俺もゴメン。俺も言い過ぎた」
   杏、涙しながら、笑顔を作り、社のあ
   る方を指さし、
杏「まだ、あのお社残ってたンだよ」
   真一、訝しげに、
真一「何言ってンだ? 社なんて、もうない
 だろ?」
杏「え?」
   と、振り返る杏、
   するとそこにあったはずの鳥居と社が
   なくなっている。
真一「あの社は、天女様がこんな所にいるの
 は申し訳ないって、町役場の中に映された
 じゃないか」
杏「そうだ……それじゃ、あれは……」
   優しい風が吹き抜け、木々をざわめか
   せる。
   その揺れる木々を見つめる杏。
                   了
posted by 車弁慶 at 14:20| Comment(3) | TrackBack(0) | 車弁慶 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これは上手い!
少しずつの気持ちの機微で物語を創るのって大変なんですよね。
何かにつけ大風呂敷を広げてしまう自分はダメだなあと思い知らされたり。なんだか。
Posted by リーダー at 2008年07月04日 19:44
どうもどうもはじめまして。
読ませて頂きました。いいストーリーですね。なんだかその場の空気すらも感じれるシナリオでした。
Posted by 中本良 at 2008年07月05日 00:25
BGMは「少年時代」かなぁ( ^ ^ )
な〜つがす〜ぎ〜、風あ〜ざみ〜♪

映像化するとしたらロケハンが案外大変そうです。
Posted by メープル at 2008年07月05日 10:20
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