2008年07月06日

Sky Gazer -1話

人は初めから当たり前にある物に関しては注して注意を注がなかったり、気にしないのが普通の事だ。
僕たちは何も考えなくても普段呼吸して、手足を動かして、寝て起きて生活している。
でもひとたび「何故呼吸してるんだろうか?」と意識したら急に息苦しくなる、人間ってのはそういうものなのだ。

だから僕の住むこの世界では、人が無意識に呼吸をするように、何も考えなくても手足を動かせるように、ごく自然に、当たり前に空が無い。

空が無いのだ。

今が西暦で言うと何世紀なのかすら人はわからない、ただ最後の大戦から200年以上経ってるのはみんなの共通認識だ。

相次ぐ民族紛争、それに介入する大国の武力鎮圧という名の何十年に及ぶ暴力によって、何よりも一番ダメージを受けたのはこの星だった。
かつては「緑の星、奇跡の惑星」と言われたこの星も今は汚泥に沈む石ころのようなものだ。
自然といわれるものはほぼ壊滅し、一部の空気浄化システムが稼動している都市部にしか人間は住むことができない。
ジオフロント計画も相次ぐ地殻変動で計画変更を余儀なくされ
「上に伸びれないなら下に進め」という生活環境改善の一台プロジェクトは脆くも崩れ去った。
人間が上に伸びることを放棄したのは先述の対戦末期の話だ。
世界最大の大国に対しての起死回生の一撃として開発されたのが軌道衛星「シャンポリオン」だ。
何故この世界に暗雲を齎せた機械にフランスが生んだ言語学の天才、古代の英知であるヒエログリフ解読を成し遂げた偉人の名前をつけたのか、もう知る人は居ない。
「シャンポリオン」は大国軌道衛星上に常駐し、大気中に点在、増殖する「ガス」を吐き出し続ける、それだけの機械だった。
この「ガス」は酸素を含むと爆発的に増加し、あらゆる紫外線、赤外線、可視光線はもちろん、光子や粒子すらも通さない無形の盾なのだ。
計画では大国上空全体をこの「ガス」で包み、然るべきサイズで酸素供給をストップ、「シャンポリオン」自体を自爆させ
敵国のみを暗黒と光合成の無い世界に突き落とす、はずだったのだ。
ところがどこの世界にも「いくら計算しても出てくるケアレスミス」というのはあるらしい。
シャンポリオンに組み込まれた自立型AIは自爆を却下。
内臓のナノマシンを使い自己修復、ガス製造を繰り返し、この星ごとその暗黒の盾で包んでしまったのだ。
物の文献によるとガスが全世界を包むまでに38時間しかかからなかったらしい。

同時に敵国に対して報復の攻撃許可を下した大国は同時に敵対国からも報復の直接攻撃を仕掛けられる。
あらゆる悪い事が重なって、世界はあっというまに焼け野原に。

テクノロジーは失われ、人間の数は全盛期の15分の1くらいしか無い。
もっとも空を失ったこの世界では人間が住める場所など以前の30分の1も無い。
人が住める場所に少なくなった人が、それでも余っているのだ。
結果排斥されたのは僕たちと同じ日本人だ。
戸籍を排除され、人間としては扱われなくなった。
今じゃ日本人を殺したって誰も文句も言わないんだよ?

今表通りを歩ける日本人は、統括政府直属の実行部隊「犬」に成り下がった首都警護の名を借りた狂犬どもと、あったか幸せ家族のペットになったやつか、お金持ちの娼婦どもだけだ。

言い忘れた、僕の名前はクウ、昔の文字だと空って意味だそうだ。
生まれたときから親は居なかった、真っ暗な世界の、チリチリ明滅する赤色電灯が照らす地下のスラムで育った。

僕がこの年まで生きてこられたのは非常に運が良かったのと、唯一胸を張れる仲間が居たからだ。
ユウキ、ミハル、シバタ、カワカミ、キム、ゲンキにマコト、そして僕たちに「生きること」を教えてくれたマスター。
マスターは僕たちに言った
「生きることは、希望を持つことだ、希望があれば世界も変わる」
そんなマスターは犬に殺された、半年前の事だ。
危険思想の持ち主という事で、ぼろくずみたいに殺された。
残念ながら僕たちはそんな風に死んでいく人間なんて見慣れていたから、涙だって流すことが出来なかったんだ。
でも、日にちが経つにつれて、僕たちの心に開いた空洞は大きくなっていった。
マスターが言った「希望」ってナンなんだろう?
僕にとっての「希望」はナンなんだろう?

黒だったり紫だったりするガスの雲は相変わらず地上250メートルの高さで固定されている、その雲を何も考えずに見ていた僕にシバタが一言呟いた。

「この雲の上には、まだ空ってのはあるのかな?」
「わからないね、何しろこの200年誰も観測出来ないんだから」
「なぁ、クウ、お前の名前は空って意味なんだよな?」
「そうだってマスターは言ってた」
「この先に空があるなら、それはどんな物なんだ?どんな形で、どんな色なんだろう?その空の先には?空に今もいるっていう200年前のシャンポリオンってのはどんな形の機械なんだ?空にいる、ってのはどういう事なんだ?」
「そんな急に言われてもわからないよ、どうしたんだよシバタ」

普段は物静かなシバタが急に興奮したかのように離しかけてくる、それだけで何かが動いた気がしてきた。

「なぁクウ、俺たちは地下スラムで生まれて、こうやって生きている、でも、シャンポリオンが『空に居る』んなら、あの雲を抜ければ」

ドクン、解らないけど鼓動が早くなった。

「あの雲を抜ければ俺たちも空にいけるんじゃないか?ここを抜けて、ここより広い世界に、空に、ひょっとしたら空のその先に行けるんじゃないか?」
「…なんでそんな話、僕にするんだい?」
「夢を見たんだ、クウが、宙に浮かんで、あの雲を突き破った」

それはまだ希望なんてものじゃなかったのもしれない。
でも僕は今まで無意識にそこにあった「黒紫の雲の先」にある空を意識してしまった。
当たり前を疑って、意識してしまったのだ。
まだ希望なんかじゃない、でも僕は今、ドキドキする。

posted by かっぺ at 11:52| Comment(4) | TrackBack(0) | かっぺ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
アップはええー!やる気満々で嬉しいス。

これはアレだよね。ラノベじゃなくてジュブナイルだよね。
ガンバの冒険とかああいう熱い感じになってくれるのをもの凄く期待している。

ていうかコレいいなー俺が書いてみたいかも(笑)
Posted by リーダー at 2008年07月07日 10:23
今週間でネット小説書いてるから…ノればこれくらいのペースはいける。

これは僕主催の演劇ユニット「GAIA_crew」の戯曲用プロットを何となく再構築してるのですよ〜
多分再来年くらいにやる予定の話で、今書くことで形が定まればいいかな、と。

しかし誤字や間違った文節多いな、自分の文章力の無さを恥じるわ…後で修正するわ。
Posted by かっぺ at 2008年07月07日 10:39
初めましてかっぺ様

こ、この壮大な話を戯曲でするんですか……?( ^ ^ ;)
舞台(の広さが)足りるのか心配になりました。すごい構成ですね。

なぜか登場人物たちの手にカップヌードルが握られている幻影が見えました(画調は大友で)が、そんな贅沢のできる社会情勢じゃなさそうですね(笑)

「北○の拳状態」の世界観を書いているのは私も同じですので、お互いに頑張りましょう!

 ところでリーダー、やっぱりここのメンツでチャットしたいよ……。
Posted by メープル at 2008年07月08日 22:25
>メープルさん
コメントありがとうございます〜
うーんと、ある程度広くないと辛いですけど、その辺は構成やら脚本でどうにでもw

逆にここでの話は舞台では書ききれない部分もかけたら良いなぁ、とは思っています。

肩にあんまり力いれずに面白い物が出来たらいいなーなんてねw
Posted by かっぺ at 2008年07月10日 00:44
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。


×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。